抗腫瘍細胞活性を持つ天然物による細胞死の機構の解析
分子細胞制御
 
               金沢大学癌研究所免疫生物部 坂井俊之助

Tabebuia avellanedae(イぺ)はウイルス発癌(乳癌)を抑制する事を昨年明らかにした。また培養系に用いると腫瘍細胞死が高率に認められた。この抗腫瘍細胞活性は同系マウスを用いた継代移植細胞株でも有効であった。
本年度は細胞死の機構の解析を行う目的で、腫瘍細胞死が生じる正確な時間、RNAおよびDNAの変化を検討した。NIH−3T3細胞、または腹水型癌細胞6×100000/5mlに10mgのイペを添加し72hrs培養では細胞は全て傷害され、核内のDNAは小さなフラグメントになった。これに対しイぺ5mg/5ml、72hrs培養では約半数の細胞が傷害され、DNAは量的には低下したが分子量は正常のものと変わらなかった。培養24時間では約半数の細胞死が認められたが、トータル量も若干低下した。また、高分子DNAを直接断片化する作用はなかった。以上によりイペは分裂の活発な細胞に作用しDNAを小さなフラグメントにすると考えられる。
細胞死が生じる過程を詳細に検討した結果では、添加後9時間では細胞死が認められず、12時間で85%の腫瘍細胞死が生じた。この9時間から12時間のどの時点において細胞死が始まるのか興味深く、現在経時的にDNA、RNA上の変化を検討中である。この結果はイぺは添加後直ちに腫瘍細胞死を引き起こすのではなく、たぶん分裂増殖を阻害することによって腫瘍細胞死が生じると推定している。
なお、イぺは正常細胞には傷害作用は有しないが、LPS、ConAで幼若化させたリンパ球は効果的に傷害した。昨年報告したようにイぺは正常リンパ球には全く傷害活性を示さなかった。したがって細胞傷害活性は分裂細胞に共通に、しかも特有に出現し正常細胞では認められない成分と反応すると推論できる。現在イぺの有効成分を有機溶媒、クロマトグラフィーなどで分離し分裂細胞の如何なる系と反応するか解析中である。